「米8月のPPI予想を下回る」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- 8月の生産者物価指数(PPI)の発表を受けドル円は下落。147円10銭まで売られたが直ぐに147円台に戻し、前日と変わらずに。
- 膠着状態が続くユーロドルは1.17前後から1.17台前半で小動き。
- 株式市場ではPPIの下振れを受けながらも展開はまちまち。オラクル株が急騰しナスダックとS&P500は揃って最高値を更新。一方ダウは下落。
- 債券は反発。長期金利は4.04%台に低下。
- 金は4日ぶりに小幅安。原油は続伸。
8月生産者物価指数 → −0.1%
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ドル/円 | 147.10 〜 147.64 |
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ユーロ/ドル | 1.1692 〜 1.1730 |
ユーロ/円 | 172.33 〜 172.91 |
NYダウ | −220.42 → 45,490.92 |
GOLD | −0.20 → 3,682.00ドル |
WTI | +1.04 → 63.67 |
米10年国債 | −0.043 → 4.045% |
本日の注目イベント
- 欧 ECB政策金利発表
- 欧 ラガルド・ECB総裁記者会見
- 米 8月消費者物価指数
- 米 新規失業保険申請件数
- 米 4−6月期家計純資産
- 米 8月財政収支
本日のコメント
8月の米生産者物価指数(PPI)は、予想外に低下していました。前月比では0.1%低下しており、マイナスは4カ月ぶりです。市場予想は0.3%の上昇でした。また7月分も速報値の0.9%から0.7%に下方修正されています。前年同月比では2.6%(市場予想は3.3%)で、こちらも7月分は3.1%(速報値3.3%)に下方修正されています。発表を受け、来週のFOMCだけではなく、それ以降の会合での利下げ観測も強まりドル円は売られましたが、147円10銭止まりでした。その後直ぐに147円台半ばまで反発するなど、ドル円の底堅さにはやや驚きです。「FRBによる利下げ観測と、日本の政局の綱引き」と思われますが、今夜のCPIも下振れするようであれば、来週の会合で50bpの利下げの可能性がさらに高まります。また、年内残りの会合全てで利下げを行うとの見方もさらに支持されそうです。それにしてもドルは底堅いです。
一方日銀の利上げの方ですが、ブルームバーグがエコノミスト50人を対象に3−10日に行った調査によると、日銀の次の利上げ予想は10月が36%と前回の8月調査の42%からは減少したものの、引き続き最多でした。一方、12月が11%から22%に拡大し、年内での利上げは53%から58%に増加しています。筆者は現時点では10月に1回の利上げがあると予想しています。また、9月会合は回答者全員が現状維持を見込んでいました。植田日銀総裁は、4会合連続で政策維持を決めた前回の7月会合後の記者会見で、米関税政策に伴う不確実性を強調するとともに、政策対応が後手に回るリスクは高くないと発言。氷見野副総裁は今月2日の講演で、当面は関税政策の影響が「大きくなる可能性の方に、より注意が必要ではないか」と語っており、早急の利上げには慎重な見方を示していました。
米司法省は10日、FRBのクック理事解任を一時差し止めとする連邦地裁の判断を不服として控訴しました。トランプ政権は、首都ワシントンの連邦地裁が9日に下した判断の破棄を求める申し立てを行っていました。しかし同地裁のコブ判事は、FRB理事の職務を続けることを求めたクック氏の訴えを認める判断を示し、住宅ローン申請で虚偽の情報を記載した疑惑については、連邦準備法に基づく解任の理由になるとは考えにくいと結論付けていました。クックFRB理事を巡っては、トランプ氏が先に解任の意向を表明。FRB理事は「正当な理由」がある場合にのみ解任されると法律で規定されており、クック氏は自身の解任を試みるトランプ氏の言動は違法だと主張し、提訴していました。ブルームバーグは、「焦点となるのは、9月16−17日に予定される連邦公開FOMC会合だ。コブ判事の判断が有効である限り、クック理事は会合に出席できる。最終決着は連邦最高裁に持ち込まれる公算が大きい」と伝えています。連邦高裁がトランプ氏に不利な判断を示せば、速やかに最高裁で争われる公算が大きいようです。
最後に気になったのは、「米労働省の監察総監室は主要経済データの収集と報告に関し、労働統計局(BLS)が抱える課題について、調査を開始する。生産者物価指数(PPI)と消費者物価指数(CPI)の情報収集並びに、『月次雇用データの収集と報告、修正』を重点的に調査すると、監察総監室は10日付の書簡に記した。BLSは労働省の管轄下にある」という記事でした。8月1日に発表された7月の雇用統計では、前2カ月分のデータがパンデミック後で最大の下方修正となり、大きなサプライズでした。トランプ大統領はその直後にBLS局長を解任しています。またBLSは9日、非農業部門雇用者数の年次ベンチマーク(基準)改定推計値を発表しました。これによると3月までの1年間に増えた雇用者数は、同統計史上で過去最大となる91万1000人下方修正される可能性が高いことになりました。筆者も長い間為替に携わっており、雇用統計発表の度に一喜一憂し、その度に相場は大きく動きました。これまでの数字は一体何だったのだろうという思いはあります。
本日のCPIは総合で、前月比「0.3%」、前年比で「2.9%」と予想されており、いずれも7月よりはインフレが加速していると見込まれています。昨日のPPIのように下振れするのでしょうか?
本日のドル円は146円30銭〜148円程度を予想します。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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9/5 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「もっと情報を得たい。私はまだ決めていない。インフレの数値が穏やかであれば、それだけ労働市場に集中しやすくなる」、「しかし最新のインフレ統計ではサービス部門でインフレ上振れが見られた。従ってそれが一時的なものであり、もっと深刻な兆候ではないことを確認したい」 | -------- |
9/3 | ムサレム・セントルイス連銀総裁 | 「完全雇用の労働市場とコアインフレがFRBの目指す2%を1ポイント近く上回っている環境と、やや引き締め的な現行の政策金利は整合する」、「現時点では政策においてバランスの取れたアプローチを取ることが重要であり、労働市場の支援やインフレ抑制のいずれかに偏り過ぎるべきではない。先行きを見通すと、労働市場は徐々に冷え込みながらも完全雇用に近い状態を維持するだろうが、リスクは下方向に傾いている」 | -------- |
9/3 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「物価安定が依然として最大の関心事項ではあるものの、労働市場は十分減速しており、年内残りの期間において恐らく25ベーシスポイントの政策緩和が妥当になると考えられる」、「今後数カ月のインフレ動向や雇用市場の展開によっては、この認識は変わり得る」 | -------- |
9/3 | ウォラー・FRB理事 | 「次回会合で利下げを始める必要がある。その後は決まった道筋を踏まなくてもいい。人々は関税によるインフレをまだ懸念しており、状況を見極めながら進めることができる」、「米国の政策金利は現在、景気を刺激も抑制もしない中立金利を上回っており、金融政策が経済を抑制している」、「中立に近づきたいことは認識している。どれくらい利下げすべきかもおおよそ分かっていて、例えば100から150ベーシスポイントだ。ただ、その水準にどれだけの速さで到達するかは、入ってくるデータ次第になるだろう」 | -------- |
8/27 | ウィリアムズ・NY連銀総裁 | 「私の見解では、全ての会合が間違いなくライブだ」、(最大雇用と物価安定というFRBの2大責務に言及し)、「リスクは一段と均衡してきている」、(金利水準は)「やや景気抑制的だ」、「利下げを実施しても、依然としていくぶんか景気抑制的な状態を維持できるだろう。ただし、経済で実際に何が起きているのかを見極める必要がある」 | -------- |
8/26 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「経済が緩やかな動きとなれば、金利調整は小幅にとどまるだろう。実際に経済が緩やかな動きになるかは分からない。それはその時に確認しなければならない。従ってこれは私の予測だが、予測は変わり得る」 | -------- |
8/21 | ポスティック・アトランタ連銀総裁 | 「労働市場の動向は気掛かりな要因となり得る」、「現時点でも基本的には同じ考えだ」、「ただ、足元の環境においては、あらゆる見通しや予測に幅広い不確実性が伴う」、「特定の見通しに固執しているわけではない」 | ドルが買われ、債券と株は下落。 |
8/21 | ハマック・クリーブランド連銀総裁 | 「米国のインフレは高過ぎる上、過去1年を通じて上昇基調にある」、「もし政策会合が明日開催されるとして、現時点の情報に基づけば、利下げの論拠は見当たらない」 | ドルが買われ、債券と株は下落。 |
8/21 | ブラード氏・前セントルイス連銀総裁 | 「金利は現時点でやや高過ぎる。2026年に向けて100bp程度の引き下げが可能だと考える。それは9月の会合での利下げから始まり、恐らく年内に追加利下げがあるだろう」 | -------- |
8/14 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「現時点での戦略的アプローチは『動いて、待つ』というものになるだろう」、「われわれの行動後、経済がどう動くか分かるまでに時間がかかるかもしれない。その間に、次にどのような行動を取るべきか鮮明になるだろう」、「労働市場が堅調を維持すれば、年内は1度の利下げが適切になるという見方はなお変わらない」、「いつ行動を起こすかについては予断を持っていない。特定の時期に固執していない」 | -------- |
8/14 | ムサレム・セントルイス連銀総裁 | (9月の会合で)「私自身としてどういった政策を支持できるかを正確に述べるのは時期尚早だ」、(9月会合で0.5ポイントの利下げが正当化され得るかとの質問に)、「経済の現状や見通しを踏まえれば支持されない」、「データは、より持続的なインフレの可能性があるかどうかを示し始めている。労働市場には下振れリスクがある」、「私は両方の要素を意識している」、「われわれの2つの責務の間に緊張が見られる場合は、バランスの取れたアプローチで臨む必要がある」 | -------- |
8/14 | デーリー・SF連銀総裁 | 「0.5ポイントというのは、われわれが緊急性を認識しているように聞こえる。労働市場について私が感じているものとは違う緊急シグナルを発することになると懸念する」、「そうは見ていないし、遅れを取り戻す必要も感じない」 | -------- |
8/13 | ベッセント・財務長官 | 「9月の0.5ポイント利上げを皮切りに、そこから一連の利下げを実施できるだろうと考えている。どのモデルを見ても、金利は恐らく150、175ベーシスポイント低い水準にあるできだろう」、「トランプ大統領も望んでいる」、「日本はインフレ問題を抱えており、確実に日本からの波及がある」、(日銀の植田総裁と話したこと明らかにしたうえで)、「これは総裁の見解ではなく、私見だが、日銀は後手に回っており、利上げするだろう」 | 株と債券が買われ、金利が低下したことでドル円は147円08銭まで下落。 |
8/12 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「米経済の先行きに対する不透明感は薄れつつあるものの、FRBがインフレ抑制と雇用の下支えのどちらに重点を置くべきかは、依然として明確ではない」 | -------- |
8/12 | シュミッド・カンザスシティ連銀総裁 | 「経済が勢いをなお維持し、企業の楽観的な見方が強まり、インフレが当局の目標を上回る水準にとどまる中では、緩やかな引き締め状態にある金融政策スタンスを当面維持するのが適切だ」 | -------- |
8/7 | ポスティック・アトランタ連銀総裁 | 「年内に1回の利下げが実施される可能性が高いとの見通しは変わらない」、「関税の影響が一時的なものなのか、あるいはもっと持続的なものなのかという点が、現時点では恐らく最も重要な問題だ」、「この日発動された関税の影響が、一時的な物価上昇にとどまるという教科書的な関税の例に当てはまるには、いくらか会懐疑的な理由がある」、「これは一度きりで、ある朝目が覚めたら全ての関税が明らかになっているという話ではない。むしろ、関税が頻繁に変化することで、消費者の意識の中に関税や物価上昇見通しが浮かぶ期間が長くなり、インフレ期待が高まるリスクがある」 | -------- |
8/6 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | 「景気は減速している。短期的にFF金利の調整を開始することが適切になる可能性がある」、「関税の影響が明確になるまで、どれくらい待てるのか、それが現在、私を悩ませている。最良の選択肢が、多少の調整を行い、その後に一時停止や方向転換を迫られる展開であっても、関税の影響が明確になるまで何もしないで待つより望ましい可能性がある」 | -------- |
8/6 | クック・FRB理事 | 「7月の雇用統計は懸念すべき内容だった。こうしたデータの修正は転換点でよく見られる傾向だ」 | -------- |
8/4 | デーリー・SF連銀総裁 | (先週のFOMCの決定について)、「もう1会合見送る用意はあったが永遠に待つことはできない」、「インフレが加速・波及したり、雇用市場が持ち直したりすれば、2回未満の利下げでも十分かもしれないが、より可能性が高いのは、2回を超える利下げが必要になるかもしれないことだと考える。労働市場が弱い局面に入りつつある一方で、インフレへの波及が見られない場合、さらに措置を講じる準備も必要というのが私の見解だ」 | -------- |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書