「ドル円、およそ2カ月ぶりに149円台前半に」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- ドル円は続伸。米金利の上昇が続き、ドル円は一時8月16日以来となる149円36銭まで上昇。
- ユーロドルは続落。1.0936まで売られ、ドイツ経済の不透明さに加えて、ドル高が重石に。
- 株式市場は3指数が揃って大幅高に。ダウとS&P500は共に最高値を更新。
- 債券は売られ、これで6日続落。長期金利は4.07%台に上昇。
- ドル高が続く中、金は4日続落。原油も売られ73ドル台に。
ドル/円 | 148.68 〜 149.36 |
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ユーロ/ドル | 1.0936 〜 1.0959 |
ユーロ/円 | 162.89 〜 163.46 |
NYダウ | +431.63 → 42,512.00 |
GOLD | −9.40 → 2,626.00ドル |
WTI | −0.33 → 73.24ドル |
米10年国債 | +0.061 → 4.073% |
本日の注目イベント
- 英 英9月消費者物価指数
- 米 新規失業保険申請件数
- 米 9月消費者物価指数
- 米 ウィリアムズ・NY連銀総裁講演
本日のコメント
米長期金利の上昇が続き、これがドル円を押し上げています。昨日の米債券市場では9月17−18日に開催され、50bpの利下げを決めた際の議事録が公表されました。一部の当局者が25bpの利下げを主張し、大幅利下げに異論があったことが材料視され、米金利上昇につながりました。ドル円は金利高を背景に再び149円台を回復し、一時は149円36銭と、8月16日以来となるドル高水準を記録しています。一部では、ドル円は150円台も視野に入ったとの見方も出ており、「200日移動平均である151円15銭にも近づいている」と指摘しています。
公表された議事録では「一部の参加者はこの会合で政策金利のレベルを25ベーシスポイント引き下げる方が好ましいとの認識を示し、その他の数人はそのような決定を支持していたであろうことを示唆した。だた、利下げ自体は適切だと全ての参加者が考えていた」と記されていました。この決定に関しては、ボウマンFRB理事が25bpの利下げを主張し、50bpのこの会合ではボウマン理事が反対票を投じたことはすでに公表されています。ボウマン理事は、ディスインフレに対して慎重な姿勢を崩しておらず、8月20日の講演でも物価上昇率が目標の2%を「不快なほど上回っている」と述べ、政策金利は漸進的に引き下げるべきだと主張していました。(参照:9月19日付けアナリストレポート)ただ議事録では、「その他の数人はそのような決定を支持していたであろうことを示唆した」という文言があり、同会合で反対票は投じなかったものの、大幅利下げには否定的だった数人がいることが判明し、これが債券売りにつながったのではないかと思われます。
もっとも、米債券が売られ金利が上昇傾向にあるのは、あと20日余りに迫った米大統領選で「ハリス、トランプのどちらが勝利しても、巨額の財政赤字につながることから、米金利に上昇圧力がかかる」との見方が背景にあります。米国の元議員ら超党派で構成する「責任ある連邦予算委員会」が公表した資料によると、トランプ氏の公約では2026年〜35年度では7.5兆ドル(約1175兆円)の赤字要因となり、ハリス氏であっても3.5兆ドル(約521兆円)の赤字になると予想しています。この赤字額の大部分は「トランプ減税」の継続が占めており、ハリス氏も同減税の延長には賛成のようです。また、トランプ氏は減税の原資を「10%の一律関税の導入と、中国製品に対する60%の関税引き上げ」を見込んでいるようですが、仮にそうだとしても、輸入物価が上昇し、インフレの再燃懸念から米金利には上昇圧力がかかるという点では変わりません。米大統領選は11月5日に行われ、11月のFOMC会合は同月6−7日です。50bpの利下げ観測は急速に後退し、現時点ではほぼゼロになっています。
米シタデル・セキュリティーズの金利責任者のドバス氏はブルームバーグ・テレビジョンとのインタビューで、米国の力強い経済と根強いインフレによって、米金融当局による今年の利下げはあと1回にとどまる見通しだとしています。ドバス氏は、「大胆な予想をすると、年内残りは25ベーシスポインの利下げにとどまろう。市場は年内50bpの利下げをなお示唆している。われわれが見るところによると、基調的な経済の堅調さやインフレの根強さなどを考慮すると、それは少し高すぎるように感じる」と指摘しています。また、ダラス連銀のローガン総裁は9日ヒューストンで開催された会議で、「先月に0.5ポイントの利下げが行われた後で、二つの責務に対するリスクの間で最善のバランスを取るためには、正常な政策スタンスへの回帰はより緩やかな道筋が適切になるとみられる」と述べ、慎重なアプローチが必要との見方を示しています。
「ADP雇用者数」、「雇用統計」で相次ぎ、米労働市場が思ったほど減速していないことが示され、さらに大統領選後も米財政赤字拡大懸念から金利上昇圧力が増し、これが再びドル円を押し上げる状況になっています。本日は「10月の消費者物価指数」が発表されますが、以前ほど注目度が高くないのも事実です。サプライズがない限り、インフレは落ち着き、さらに注目度は低下する可能性もあります。
本日のドル円は148円〜150円程度といったところでしょうか。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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10/9 | ローガン・ダラス連銀総裁 | 「先月に0.5ポイントの利下げが行われた後で、二つの責務に対するリスクの間で最善のバランスを取るためには、正常な政策スタンスへの回帰はより緩やかな道筋が適切になるとみられる」 | -------- |
10/3 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「インフレは低下しており、目標に近づいている。失業率は上昇したが、雇用市場は基本的には望ましい状態にある」と発言し、「金利は今後12カ月間に大幅に下がる必要がある」 | -------- |
10/2 | 石破首相 | 「個人的には現在追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない。これから先も緩和基調を維持しながら経済が持続的に発展することを期待している」 | ドル円144円台半ばから146円台半ばまで上昇。 |
9/30 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「労働市場に警戒すべき指標が現れているため、適切だった。ただ、雇用とインフレは当局の目標にほぼ沿った水準になっており、経済全体は順調に成長している」、(11月のFOMC会合での利下げ幅については)、「金利を正常な水準まで引き下げるプロセス全体を考慮することがより重要だ」 | -------- |
9/30 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「基本シナリオ通りであれば向こう1年3カ月でFRBは秩序だった形で緩和を進め、2025年末に金利は3−3.25%のレンジで落ち着くだろう。これはインフレが低下を続け、労働市場が引き続き堅調であることが前提で、その場合は利下げをもう少し辛抱できる余裕が持てると思う」 | -------- |
9/30 | パウエル・FRB議長 | 「この先、経済がおおむね想定通りに進展すれば、政策は時間とともにより中立のスタンスへと移行するだろう」、「われわれはあらかじめ定まった道を進んでいるのではない」、「政策当局は今後も入手するデータに基づき、会合ごとに判断を下していく」、「委員会は利下げを急いでいない。最終的には、これから入ってくるデータに導かれるだろう。景気が予想以上に減速すれば、利下げを早めることが可能だ。景気が予想ほど減速しなければ、もっとゆっくりしたペースで利下げを実施できる」 | ドル円は買われ、143円92銭まで上昇。株価も小幅に上昇。 |
9/26 | イエレン・財務長官 | (米国のインフレは十分抑制されているかと問われ)、「その通りだ」、「かなりの期間にわたってコスト上昇の最大要素となっている住宅コストが下がると想定しており、2%のインフレが可能になる」、(今後どの程度のペースで利下げが実施されるべきかについてはコメントを控えていましたが)、「それはFOMCが決めることだ」、(為替レートをモニターしているかとの質問には)「もちろん、ドルの価値を観察している」、「米国は為替市場への介入を長らく行っていない。市場があまり無秩序により、介入が必要になるという状況は想定し得るが、通常の場合、ドルは市場によって決定され、世界の金利差がその重要な要素になってきた」 | -------- |
9/25 | クーグラー・FRB理事 | 「労働市場は依然底堅いものの、FOMCはディスインフレが正しい軌道に引き続き進む中で経済の不要な痛みや悪化を回避しつつディスインフレが進展を続けられるよう、重点のバランスを取る必要がある」、「私は先週の決定を強く支持した。インフレが引き続き、私の予想通り進めば、この先、FF金利の追加引き下げを支持するつもりだ」 | -------- |
9/24 | ボウマン・FRB理事 | 「米金融当局の2つの責務を達成する上でのリスクに目を向けると、特に労働市場が完全雇用の推計値に近い状態が続いている中、物価安定へのリスクは大きくなっていると、私は引き続きみている。25bpで利下げサイクルを開始すれば、経済状況が一層強くなると同時に、米金融当局の目標に向けた進展を自信を持って認識することができるだろうというのが私の見解だ」、「コアインフレは、当局目標の2%を依然として、不快なほど上回っている」 | -------- |
9/23 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「私としてはインフレへの懸念が残るため、先週の初回利下げでは比較的小幅な動き、例えば25bpで折り合いがついたかもしれなかった。しかしそうした動きはこの先の労働市場に対して高まる不透明感と整合しなかっただろう」 | -------- |
9/23 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「2%への軌道にあるという確信を得た現在、FRBが担うもう一つの責務である雇用のリスクに、さらなる重点を置くのが適切だ。つまり向こう1年に、もっと多くの利下げがあるということを意味する可能性が高い」 | -------- |
9/23 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | 「50bpの利下げ後でも依然としてネットでタイトなポジションであるので、最初の一歩を通常より大きくすることに違和感はなかった」、「データが大きく変わらない限り、今後は恐らく、より小さなステップになると予想している」 | -------- |
9/20 | 植田・日銀総裁 | 「足元の日本経済のデータ見通しに沿って推移しているが、すぐ利上げだとはならないと考えている」、「データが見通し通りに推移していけば、少しずつ利上げしていくという考えは変わらない」、(利上げペースに関して)「時間的余裕がある」 | ドル円は141円台後半から143円台に反発。 |
9/19 | イエレン・財務長官 | 「米経済の現状に関する非常に明るい兆候だ。インフレ率押し下げにおける進展と、労働市場を守るという決意を反映している」、「金融政策スタンスは引き続き景気抑制的だ。金利はさらに低下すると予想されている」、(労働市場については)「引き続き正常かつ健全だ。雇用主がスタッフの採用に苦慮していた2022年や23年ほど過熱していない。今のこの道筋を進み続けることは可能だ」 | -------- |
9/18 | パウエル議長 | 「今回の決定は緩やかな成長と持続的に2%に向かうインフレ率という状況において、政策スタンスの適切な再調整により労働市場の強さを維持し得るという、われわれの確信の強まりを反映している」、「今回の決定を受けて、『これが新しいペースだ』とは誰も捉えるべきではない」 | ドル円が反発し、株と債券は売られる。 |
9/18 | FOMC声明文 | 「雇用とインフレ目標達成に対するリスクはほぼ均衡していると判断している。委員会は最大限の雇用を支え、インフレ率を目標の2%に戻すことに強くコミットしている」 | -------- |
9/12 | ラガルド・ECB総裁 | 「労働コストの全体的な伸びは緩やかになっているものの、賃金上昇率は高く変動の大きい状態は続くだろう。一方で景気回復は、幾つかの逆風に直面し、リスクは引き続き下振れ方向に傾いている」 | ユーロドルは小幅に買われる。 |
9/6 | サマーズ・元財務長官 | 「確かに、数字はそれほど顕著な弱さを示してはいない。しかし、最近の統計の傾向に懸念を抱いた人にとって、経済の健全性を示すものではなかった。9月の会合で利下げ幅が25ベーシスになるのか、50になるのかは、私自身の1、2カ月前の予想よりも予断を許さなくなったように見える | -------- |
9/6 | イエレン・財務長官 | 「雇用の伸びがこの辺りで安定すれば非常に喜ばしい」、「そうなることを望み、期待している」 | -------- |
9/4 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | インフレ率は著しく低下したが、物価安定の責務を果たす上で、リスクはまだ残っている。こうしたリスクが引き続き弱まるよう、警戒を怠ってはならない」、「早計な金融緩和はインフレを再燃させ、それを何カ月あるいは何年も経済に定着させかねない危険な一手であることを、歴史が示している」 | -------- |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書