一目均衡表は、株式評論家の細田悟一氏が一目山人というペンネームで戦前に発表したテクニカル指標です。外国人FXトレーダーにも「東洋の神秘」として注目され、今では「ローソク足チャート」とともに日本で生まれ、世界的に有名になった定番指標として知られています。
そんな一目均衡表の考え方を一言でまとめると、「為替レートの値動きは時間による影響を受けている」というものになります。チャートは、縦軸に為替レートの価格、横軸に時間をとった2次元的なものです。しかし、横軸の時間は単純に前に前に進んでいくわけでなく、過去に起こった値動きの支配下にあり、現在の値動きは未来に大きな影響を与えます。
時間の流れには一種の周期性やリズムや起承転結があり、時間と為替変動の関係性を「日柄」という考え方で体系化したのが、一目均衡表なのです。
一目均衡表がほかのテクニカル指標とまったく違う部分は、為替レートやその平均値を未来や過去にずらして、「雲」や「遅行線」を描画し、売買判断に使用するところです。二次元のチャートに過去や未来という三次元的な奥行きを持たせている点は、世界で唯一無二、オンリーワンの指標といっても過言ではないでしょう(図1)。
まずは一目均衡表の仕組みを解説しましょう。
ほかのテクニカル指標同様に一目均衡表でも、「ある一定期間の高値と安値の中間値」という"平均値的なもの"に注目します。日足チャートであれば、
移動平均線のように各終値すべてを足して平均値を求めるのではなく、一定期間の高値と安値の中間値ですから、為替レートの高値・安値の更新がない場合、横ばいで推移することが多いのが、その特徴といえるでしょう。逆にいうと、転換線や基準線が上がったり下がったり傾きが変わるのは、これまでの為替レートが高値や安値をブレイクした瞬間です(むろん、過去の高値や安値が期間からハズれることによる消極的な上下動もあります)。そのため、転換線・基準線の傾きは、為替レートの勢いを端的に表わすものとして、移動平均線の上下動よりも強い売買シグナルになるのです。
図2はドル/円の日足チャートに一目均衡表の転換線、基準線だけを描画したものです。チャート中央で、基準線、転換線が大きく下落したポイントが売りシグナルになっていることが分かります。また、為替レートと転換線の位置関係に注目し、現在値が転換線を越えたら買い、下回ったら売りという取引の勝率が高いことも分かります。まとめると、
●基準線・転換線の傾きの変化
●基準線と転換線の位置関係
●転換線と現在値の位置関係
に注目すると、為替レートの勢いを初動段階でかなり正確にとらえることができるはずです。
次に、一目均衡表の中でもっとも有名な「雲」について見てみましょう。この「雲」こそ、過去や現在を未来にスライドさせて、その影響を見るという一目均衡表独自の考え方に基づくものです。日足チャートでは、
となり、先行スパン1と2で囲まれた部分が「雲」です。
「雲」が示しているものをあえて単純化すると、これまでの価格変動の中心ゾーンということになります。過去の値動きの中心ゾーンである「雲」は、今後の為替レートの下落を阻止する支持帯や、上昇を阻む抵抗帯として働きます。図3はさきほどのドル/円日足チャートに雲を描画したもの。期間中、ドル/円の下降トレンドが続いていますが、雲の下限や上限がドル/円上昇を阻む頑強な抵抗帯として働いていることが分かります。直近では、為替レートと雲が離れすぎているため、売買判断に即座に使うことはできません。ただし、ドル/円が上昇しても当面の上値メドは、雲が重く垂れ込めている77円台後半から78円50銭まで、という予想を立てることができます。
雲に関する売買判断としては、
といったものがあります。
なにより、今後の為替レートがどのように動くのかの道しるべ役として使えるのが「一目の雲」のすばらしいところでしょう。
非常に大ざっぱではありますが、雲は過去の投資家の平均的な売買価格を表わしていると考えることもできます。為替レートが雲の上にあると過去の投資家の損益がプラス転換するので上昇に弾みがつき、雲入りすると損益が曖昧になるので乱高下が起こり、雲割れするとマイナスになるので下降に勢いがつく、といったイメージでとらえると分かりやすいかもしれません。
ちなみに、なぜ26日先にずらすのかに関しては、一目均衡表の深遠な時間論が関係しています。一目山人は、相場は安値-高値-安値-高値のN字型など、さまざまな波動で動くことが多いと考え、どのような時間軸で、波動が生まれるのかを研究しました。その過程で、「9、17、26、33、42、68、72……」といった数字が自然の流れを体現した周期であることを発見。中でも「26」は一セットの上下動が起こりやすい「一節」と考えられ、重要視されています。
そのため、一目均衡表ではほかの指標のように、設定期間の数値を自分好みに変化させることはあまりおすすめしません。多くの投資家が9、26、52という期間設定を使っていることもあり、その数値のまま使うほうが的中率も上がりやすいように思えます。
最後に、一目均衡表の中で私が絶大な信頼を置いている「遅行線」について解説しましょう。
要するに、26日前より現在の為替レートが高いか低いかを示しただけの単純な線が遅行線です。売買判断としては、
考え方は、「現在の為替レート-X日前の為替レート」で算出する「モメンタム」という指標とまったく同じです。図4はドル/円の一目均衡表に遅行線を付け加えたものです。あまりきれいなクロスではありませんが、〇の部分で遅行線が日々線を突き抜けた直後に、ドル/円が一段安している様子が分かります。
一目均衡表では、「転換線の基準線上抜け」「為替レートの雲抜け」「遅行線の日々線上抜け」がそろった瞬間を「三役好転」=強い買いシグナルと見なしています(その反対は「三役逆転」)。3つのシグナルが絶好の売買タイミングで重なることは稀ですので、最初に起こりすやい「遅行線の日々線上抜け」と「転換線の基準線上抜け」「雲抜け」のいずれかが出揃った「二役好転」で早仕掛けする手もあり、でしょう。
本連載では、今後、一目均衡表のような人気の高い指標だけでなく、あまりなじみがないものの、勝率の高い指標も取り上げて、その使い方を簡単に紹介していきたいと思います。
26種類という豊富なテクニカル指標を自由自在に使いこなせる外為オンラインのブラウザ版チャート。その中で一目均衡表とともに、日本独自の指標として採用されているのが「新値足」です。
一目均衡表は独特な時間の概念を取り入れた指標ですが、反対に為替レートの値動きから時間軸を取り除いたシンプルなチャートが新値足です。新値足の作り方(図5を参照)は、
時間軸をまったく気にすることなく、新値足が陽線に転換したら買い、陰線に転換したら売りというトレンド転換だけに注目した指標ですので、相場と四六時中睨めっこしている必要がない点は魅力といえるかもしれません。
ただし、急激な上昇後の急落などの場合、為替レートが直前の陽線3本分を下回るまでに相当時間がかかってしまうため、売買判断がかなり出遅れてしまう危険性が高いのも事実です。
時間軸にとらわれないという意味では中長期投資向きといえますが、08年のリーマン・ショック以降は為替レートの乱高下が続いており、いまひとつフィットしない状態です。どちらかというと、持ち合い相場や乱高下相場よりも、比較的長く一定のトレンドが続く通貨ペアや相場状況に向いた指標といえるでしょう。
図6はユーロ/円の1時間足チャートに新値足を描画したものです。外為オンラインのチャートツールでは、単純に新値足が描画されるのではなく、実際のチャートの上に上書きする形で描かれているので判断しやすくなっています。このチャートでも、乱高下のあったチャート中央の上昇では途中に大きな急落もあってフィットしていません。しかし、後半部分でユーロ/円が大きく下落する場面では、新値足の陰転での売買が大成功しています。
そう考えると、あまりレバレッジをかけない少額トレードで、大きなトレンド転換を狙っていく取引に向いた指標といえるでしょう。短期売買の場合は、長期的なトレンドの方向性にシグナルが出た場合のみ、エントリーするような手法が有効です。直近の為替相場では、長期的な下降トレンドが続くユーロ/円やポンド/円などでの売り取引などで使うと、シュアに儲けられる可能性が高そうです。
このコンテンツは投資を促すものではありません。実際の投資に関しては、自己責任において行ってくださいますようお願いいたします。