今回はRSIと並んで、為替レートの買われ過ぎ・売られ過ぎを示すオシレーター(振り子)系指標の代表格・ストキャスティクスについて詳しく取り上げましょう。ストキャスティクスは、ある期間の為替レートの最高値と最安値の値幅の中で、現在の為替レートがどこに位置するのかを指標化したものです。もっともシンプルな「%K」は、
「その日の終値-過去n日間の最安値」÷「n日間の最高値-最安値」
で計算します。
つまり、ある期間の最高値から最安値という値幅に対して、最安値から当日の終値までの値上がり幅が何パーセントかを計算したものです。%Kの数値が低いほど、現在の為替レートは過去の値幅レンジの安値に位置し、数値が高いほど高値に位置することになります。
%Kが0%ということは、その期間中の最安値が現在値ということになり、為替レートが安値を更新して下落していることを示します。反対に%Kが100%ということは、為替レートが高値を更新している状態です。
たとえば、ドル/円が、
1日目 76円→78円(上昇)
2日目 78円→77円(下落)
3日目 77円→80円(上昇)
と値動きしたとしましょう。
この場合、3日間の最安値は76円で最高値は80円、現在の終値も80円ですから、
「(80円-76円)÷(80円-76円)」
で%K(n=3)は100%になります。
1日目 78円→80円(上昇)
2日目 80円→78円(下落)
3日目 78円→79円(上昇)
と推移したときの%Kは50%になります(図1)。
ちなみに、同じオシレーター系のRSIでは、前者のケースは83%、後者は60%になります。RSIの計算式は、「(n日間の値上がり幅の合計)÷(値上がり幅+値下がり幅の合計)」で、期間中の値上がり幅と値下がり幅という「面」に注目して計算します。それに対して、ストキャスティクスは最高値と最安値という「点」に注目した指標であるため、高値更新が続くと100%、安値更新が続くと0%に張り付いてしまうなど、指標の反応が「暴れ馬」のように早い点に特徴があります。
その難点を克服するために、ストキャスティクスでは%Kのm日間の移動平均である「%D」を計算し、
というように、数値そのものではなく、2本の線のクロスを見て売買判断します。それでも動きが激しいため、%Dとさらに、その移動平均である「%SD」という、より滑らかな線を描画して、そのクロスを見る「スローストキャスティクス」を使うのがもっともポピュラーです。
外為オンラインのブラウザ版チャートでは、%K、%D、%SDという3本の線を同時に描画できるので、%Dと%SDのスローストキャスティクスのクロスに注目しながら、より動きの激しい%Kを先行指標にするといった使い方ができます。
実際に、ストキャスティクスを使った売買手法を見てみましょう。図2はドル/円の日足チャートに期間9の%K、期間3の%Dと%SDを描画したものです。%Dと%SDが80%以上でデッドクロスしたときは売り、20%以下でゴールデンクロスしたときは買いで勝負すると、かなりの確率で成功していることが分かります。
対して、図3はユーロ/円の日足チャートですが、こちらは80%以上、20%以下での%Dと%SDのクロスの多くがダマシに終わっています。
この違いはどうして起こるのでしょうか? 図2のドル/円は期間中、75円〜79円という狭い値幅を上下動するレンジ相場でした。対して、図3のユーロ/円は、2011年の年末にかけてユーロ危機の長期化が懸念されたこともあって、高値111円から10数年ぶりの安値97円まで10円以上も急落する強い下降が続いていました。
オシレーター系指標の弱点は、強いトレンドがある相場では、買われ過ぎや売られ過ぎシグナルが頻発して使いづらいことです。特に、最高値と最安値という2点にのみ注目して計算されるストキャスティクスは為替レートの値動きのちょっとした「勢い」にも敏感に反応しすぎてしまう欠点があります。
その欠点を補うためには、ストキャスティクスのクロスが、チャートの山と谷の頂点にぴったり合うように、それぞれの通貨ペアの現状に適した期間設定を行うことが必要不可欠です。
図4は図3のユーロ/円日足チャートのストキャス%Kの期間設定を「9」から「5」に変えたものです。期間を短くして、チャートの山の部分と%D・%SDがデッドクロスする地点が重なるように調整したおかげで、下げ相場における売りのポイントを鮮明にとらえることができるようになりました。
当然、単独では使用せず、トレンドを把握するためのトレンド系指標と組み合わせて使ったほうがいいでしょう。
トレンドが強い相場ではなかなか使いものにならないとはいうものの、下げ相場での売りポイント、上げ相場での買いポイントに関しては、トレンド系指標よりもすばやく売買シグナルが点灯します。その長所をうまく利用して、
といったトレンドに対して順張りの場面のみで使うと威力絶大なのです。
たとえば、図5はユーロ/ドルの1時間足チャートに20時間移動平均線と期間5の%K、期間3の%D、%SDを描画したものです。移動平均線が右肩下がりで為替レートがその下にある状態は典型的な下降トレンドです。
このとき、%Dが%SDとデッドクロスして売りシグナルを発した場所はチャート上に7ヵ所あります。そのうち、3ヵ所はシグナル点灯後に大きく下げずダマシに終わりましたが、残る4ヵ所はその後の急落局面をうまくとられています。
ストキャスティクスは現在のドル/円のようにレンジ相場で威力を発揮する指標ですが、工夫次第ではトレンド相場でも十分に役立つのです。
短期売買向けの指標というイメージが強いですが、中長期的な大底買いや天井売りを狙う時間軸の長い投資でも十分、通用します。
図6はユーロ/ドルの週足チャートにボリンジャーバンド、さらに期間5の%K、期間3の%D、%SDのストキャスティクスを描画したものです。
というシグナルで売買すると、高確率な逆張り投資ができることが分かります。
ボリンジャーバンドが±2σに達していない場合でも、スローストキャスのクロスが急騰や急落の瞬間を見事にとらえています(図の薄い赤と紺の矢印)。週足チャートなど時間軸の長いチャートでは、ストキャスティクス単独で使っても十分通用するといえるでしょう。
さて、今回もう一つの指標として取り上げる「ケルトナーチャンネル」はトレンド系のテクニカル指標です。ローソク足の周辺にバンドを表示する点がボリンジャーバンドに似ていますが、使い方はかなり異なります。
バンドの中心となる線は、
「(ある期間の高値+安値+終値)÷3」のn日間の移動平均値(A)になります。
さらに、「ある期間の高値-安値」(B)の移動平均を求めて、両者を足したものが「アッパーバンド」(A+B)、「ローワーバンド(A-B)」という上下のバンドになります。
要するに、ある期間の為替レートの値動きの平均的な値幅帯を過去の値幅の移動平均から算出したものが「ケルトナーチャネル」というわけです。
図7の下段はユーロ/ドルの日足チャートにケルトナーチャネルを描いたものです。
ボリンジャーバンドと異なり、為替レートが上下のバンドの外側に抜けた局面は、逆張りよりも、その流れ・勢いに乗った順張りトレードに適した局面になっています。
(1)ケルトナーチャンネルの傾きでトレンド判断
(2)真ん中の移動平均値を下に抜けたら売りシグナル、上に抜けたら買いシグナル
(3)ケルトナーチャネルが横ばいで推移するレンジ相場では、アッパーバンド上限で売り、ローワーバンド下限で買い(逆張り)
(4)ケルトナーチャネルに傾きがあるトレンド相場のときは、アッパーバンドを超えて上げたら順張りの買い。ローワーバンドを超えて下げたら売り
というのが売買手順になります。単純な移動平均線やボリンジャーバンドに比べて、トレンドの方向性や継続・転換、加速・収束といったことが明瞭に判断できる点が魅力です。あまりなじみのない指標ですが、外為オンラインのブラウザ版チャートを使うと設定期間を自由にカスタマイズして使えます。ぜひトレンド系指標の売買判断ツールとして、ほかの指標と組み合わせて使ってみましょう。
このコンテンツは投資を促すものではありません。実際の投資に関しては、自己責任において行ってくださいますようお願いいたします。